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笠原町商工会

コレ、残さんといかんよね。

みずの のりやす
株式会社MIZNO(作善堂) 代表取締役

作善堂(さぜんどう)の工房には、レトロでかわいいタイルシンクが並ぶ。ここでは、タイルシンクを一からハンドメイドで製造している。昔懐かしいレトロ調や今人気の北欧調など、形にとらわれることなく、自由な発想でつくり上げている。サイズなどのバリエーションも幅広い。代表水野さんの本業は自動車の鈑金塗装だ。「鈑金の仕事が好きでしょうがない」と日に焼けた顔で笑う。そんな水野さんがなぜ、こんなかわいいタイルシンクをつくるようになったのか。

笠原町のみならず、日本全国どこの家庭にもあったタイルシンク。昭和の時代、笠原町にはそれをつくる事業所が60軒以上もあったという。ところが、生活様式の変化やステンレスシンクなどの登場により、1軒、また1軒と減少していった。2012年、「コレ懐かしいよね」と笠原町内のタイルシンクの工房を見に行った時には、たった1軒になってしまっていた。そのことを知った水野さんは「こりゃぁいかん」と思った。

その後の水野さんは、すぐにタイルシンクをつくることを決断。しかし、当初は苦労の連続だった。製造から販売までの仕組みをつくるのに、時間がかかった。家族や従業員と相談しながら、どうやったら仕事が上手く流れるか考える日々であった。立ち上げから5年、今では日本全国からオーダーが入る人気ぶりだ。「苦労は多いが、やりがいを感じている」と笑って話す。

とにかく、人がやらないことをしたい。 現在は、タイルシンクのほかに、タイルの水洗柱やタイルシンク用の台なども製造している。また、地元のタイルメーカーと協力し、金魚や蓮の形をしたオリジナルのタイルもつくってしまった。タイルシンクは、一つひとつハンドメイドで製作しているため、時間がかかる。しかし、お客様から「思った以上の物が出来てきた」と喜んでもらえるのが、「とてもうれしい」と笑顔をみせる。また、お客様がSNSで写真を拡散してくれることもありがたい。

昨年には、クラウドファンディングで集めたお金で、工房の片隅に小部屋と綺麗なトイレを作った。シンクを実際に見に来る女性のお客様のため、必要だったのだ。トイレは地元の友だちに作ってもらった。笠原町は田舎なので、ネットワークが強く、皆で協力しあっている。皆が子どもの頃からの仲間なのだ。笠原町で生まれ育った水野さんは、これまでタイル産業によって支えられてきた。これからはこのタイルクラフトにより、モザイクタイルの素晴らしさを全国の方にお届けして「恩返しをしていきたい」という気持ちがある。

水野さんは、休みがあったら東京へ行って色んなものを見て歩きたいと話す。そこで吸収したものを、またシンクのデザインとして活かしたい。褐色の肌に、日本人離れしたくっきりとした目鼻だち。アツく語る水野さんの目はキラキラと輝いている。